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― 現代詩フォーラム選集 ―

毎週木曜日更新予定。

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最新情報
8/23   一挙6作品掲載!!!!

   相田九龍 推薦作品
            Tsu-yoさん「のまど」
            吉田ぐんじょうさん「えいえんの夏」 
            ザラメさん「弱いものから消えてゆく」

   前田ふむふむさん推薦作品
            yo-yoさん「つくつくぼうし」
            たもつさん「その海から」
            広田修さん「機械」  


   【お知らせ】
 ・当サイトはリンクフリーです。どぞどぞ。
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機械
時間は円をめぐる歩行者のようで、はてのない夢境にて死を装い続ける。驟雨にぬれた林の小道で、あざやかな多面体をステッキで描く。数々の速度がきざまれた都市の舗石の上で、マッチの火をともす。視界をおおい始める煙雪に足をとめて、黄道へとのぼってゆく。彼の親指の空洞には夕暮れの空がひろがっていて、ガラスでできた小部屋で少年が恋文を書いている。時間には足音がない。

ひとつの機械が彼の手のなかに目覚めている。そこから世界のあらゆる突端へとのびるナトリウム繊維。南へと移動する硬質な空に、幾条ものみぞを彫りこむ。機械は求めているのだ、孤児のように。だがしずかに外部となった石英刃は、瞬間にひらめいて絃を截断する。にぶい金属音。降りそそぐ雨滴に呼応するかのように、刃は絃を選別する。やがてひとつの大きな音律へと、パターンは描かれる。刃はみずから砕け散り、表皮へと突きささり、内部となる。

……液体、だったのか。時間の手の甲にてとけゆく雪片は。赤血、だったのか。歯車のすきまを満たす重くふてぶてしい液体は。芳園、だったのか。時間の足首からにじみ出る醇美な赤血は。墓標、だったのか。機械の中心部にかたむき明滅する回路素子の芳園は……。

剪定されたかなしみに、機械はくるおしく周波数をゆらがせる。するどい回転音。限られてしまったのだ、秋めいた孤島へと。約束の地へと飛び立つ黒鳥の群れ、大魚から逃げおおせるうつくしい熱帯魚。そして、上気する湖。機械は時間の手を離れ、大気圧を二重に迂回しながら発声をかぞえ上げる。梢をめぐって嘆きに沈み、血の温度を三度さげる。機械には比熱がない。

星々はゆがみ、海面は下降した。機械はふたたび温度を上げ、風景のそれぞれの断層から電磁波のスペクトルを呑みこむ。ウサギの目に映る数々の記録の精度。「あのウサギは動く墓標だ。うつむいた衛星が彼を射殺す前に、僕が大地へと固着させてやろう。」機械はすべての導電線を引きちぎると曇天の空へと跳びあがった――。

紫の粒子たちの間をかいくぐって、ウサギの背の上に着地する重機械。内臓のつぶれる湿った音に、マザーボードの砕けるかたい音。錯乱した機械にはノイズがなだれ込む。それきり、機械は活動を停止した。

いつまでも、海は笑っていた。

時間の手のなかには新しい機械が、血を吸いながら胎動をはじめていた。





     作/広田修 さん
フォーラム選集 | 薦/前田ふむふむさん | comments(0) | -
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その海から
庭に雑踏が茂っていた
耳をそばだてれば
信号機の変わる音や
人の間違える声も聞こえた
ふと夏の朝
熱いものが
僕の体を貫いていった
雑踏は燃え尽きた
かもしれないが
庭土に刻印された日付を
人は語り続け
それは語らないことと
何も変わらない
網を持たずに出かけた子供は
低いところで弱っていたセミを
一匹捕まえて
戻ってくる途中だった
 
 




     作/たもつ さん
フォーラム選集 | 薦/前田ふむふむさん | comments(0) | -
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つくつくぼうし
夏は
山がすこし高くなる
祖父は麦藁帽子をとって頭をかいた


わしには何もないきに
あん山ば
おまえにやっとよ


そんな話を彼女にしたら
彼女の耳の中には海があると言った


その夏
ぼく達はいっぱい泳いだけれど
それは果汁のような海だった
夜は砂の上に寝て
耳と耳をくっつけて遠い海鳴りを聞いた


いま山の上には祖父の墓がある
あれから
夏が来るたびに
ぼくは片足でけんけんをして
耳の水をそっと出す








      作/yo-yoさん
フォーラム選集 | 薦/前田ふむふむさん | comments(0) | -
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弱いものから消えてゆく
でもルールー
思ってたより
生きることは難しいよ

真実は疑わなくちゃならないし
親切は裏か表かわからない

 マンボウの産む3億個の卵
 だけどその中で生き残るのはたった

そうだねルールー
生きることは
どこか戦いに似ている

 数万の蛙が産卵のため
 池を目指し行進する
 最近その通り道に道路ができた

誰もが何かから目を逸らして生きているから
本当のことを口にすれば
誰かの逃げ道をふさいでしまう

黙っているのが一番だと
ルールー
分かっているさ

けれど口を閉ざし
一人きり生きていくことはできない
できなかった

 ウグイスが調子はずれの声で鳴く
 けきょほけきょ
 間違えるたび少しずつ上手くなっていく歌

ルールー
君を抱えうずくまっていた少女は
もういない

だから何もないところでつまずいて
ヒザをすりむいても

ゆっくりでいいよ
おいで

歩いてゆこう






       作/ザラメ さん
フォーラム選集 | 薦/相田 九龍 | comments(0) | -
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えいえんの夏
八月が終わらなければいいと
願っていた

そのときわたしは
小学五年生で
朝顔を上手に育てることが出来なかった
そして
支柱にぴよぴよと巻き付いた
枯れた朝顔に
まだ毎朝ぼんやりと水をやってしまうような
そんな子供だった

一度だけ
八月の終わりに目を覚まして
日めくりを見たら
八月三十二日だったことがある

家の中には誰もいなくて
晴天なのにいやに薄暗かった
窓を開けたら
ぱたぱたと
蝉が死んで木から落ちてゆくのが見えて
見覚えのある夏は
そこにはなかった

食卓に置いてあった茹でとうもろこしは
腐っていて嫌なあじがしたし
どの漫画もおもしろくなく
遠くからサイレンの音がした

ぴかぴか光っていたのは
ランドセルだけだった

わたしは貧しい子供のように
膝を抱えて
夕立を見ているうちに

いつの間にか
ねむったみたいだ

翌日にちゃんと九月がきた
だが翌日は九月二日だった

昨日より大分くすんだランドセルをしょって
登校したら
九月をきちんと始めたともだちたちが
昨日なんでこなかったの
と机に座って笑ってた

以来
八月三十二日を過ごしたことはない

夏が終わらなければいいと思うたび
八月に閉じ込められて
膝を抱える自分の姿が見える
枯れてなお支柱に取り縋る朝顔のように
力無くくったりと横たわる自分の姿が

それは
大変ぞっとする光景である

夏は夏のままで
終わるのがいい

それがいっとう美しいと思う






     作/吉田ぐんじょう さん
フォーラム選集 | 薦/相田 九龍 | comments(0) | -
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のまど
いくつもの停留場が
いっせいに
羽を広げ
南の方へ渡って行った
停まるべき場所を
失ったバスは
大人たちの口から口へと
走り続けている
高層ビルが突き刺さった
地平線の向こう側
人々はもう
何処にも行けない
気の早いタンポポが
春を待たずに
綿毛を飛ばす
少年が新しい角度へと
旅立っていく





           作/Tsu-Yo さん
フォーラム選集 | 薦/相田 九龍 | comments(0) | -
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神君徳川いえやす公
いえやす公
幕府をひらいてください

いにしえということばがすっかりと
きえさったあとで誰もが
赤いカーテンや黒いカーテンのむこうで
からごころのうたをうたっています

しかたないのでぼくたちは
石竹でつくられたさくらの顔料の
女の肌をみつめながら
たたきつけられた
きえいるくろがねのひびきが
急転下して流麗になる計算された
さけびのなかで
恋のうたをうたっています

それでもぼくたちは
ほんとうに日輪の子だったのです
おや孝行と学問にはげむ
りっぱなさむらい大将です

東照大権現
いえやす公よ来てください
やさしさとは天下泰平です
厭離穢土です。
どうしようもなく田舎めいた
泥の中でふとった百姓どもが
卑猥なうたをうたいつづけるような
そしてむらはずれの処刑で笑い
子供がうまれても笑う
ひとがわらいつづける種類など
きっとどうでもよく
わらいつづけてみんないい

なるべく人も殺さず
なるべく戦争もせず
しかたがなくやるときは
正々堂々たたかって
大日本六十余州をなかよしで統一し
大世界二百二州に徳を充たす
それがほんとうの徳川です

ああいえやす公
突撃してください






     作/構造 さん
フォーラム選集 | 薦/清野無果さん | comments(0) | -
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流れる
わたしたち
流れて
真夜中の水になる
あなたの喉をやさしく潤して
そっと
夢の中にしのび込む


水は落ちてゆく
あなたの肩から腕をなぞり
そして
温かな水の中へと
導かれて


あなたが見つめる暗い淵の
危うさの眠りに寄り添い
白濁した水にまみれて
わたしたち
新しい命になる


めくるめく
とおい声で愛しあい
歓びと哀しみの
はじめての言葉を知って


たどたどと語りつくせるならば



明るさの方へ
目覚めて消えるまで
あなたの中を
流れて




       作/yo-yo さん
フォーラム選集 | 薦/清野無果さん | comments(0) | -
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沢田さん
近所の沢田さんは20年間
ずっと立ち話をしている
「立ち話もなんですから」と言っても
立ち話をやめてくれない
深夜 話し相手がいない時は
電柱やポストや犬と立ち話をしている

そんな変わった沢田さんではあるが
私は沢田さんを避けたりはしない
ひまを見つけては
沢田さんと立ち話を楽しんでいる
沢田さんと話していると救われるのだ
初恋の人や優しかった時の父や母
子供の頃の友達やお世話になった先生と
会っているような気分になれるのだ
沢田さんは ひとりなのに


沢田さんは今日も
台風が近づく中
立ち話をしている
こわれた
私の心の中の街角で
ひとり



       作/風見和尾 さん
フォーラム選集 | 薦/清野無果さん | comments(0) | -
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